1.パワーリハビリテーションとは・・・
- 老化に対するリハビリテーションです
- パワーリハビリテーションは、老化や器質的障害により低下した身体的・心理的活動性を回復させ、自立性の向上とQOL (クオリティ・オブ・ライフ)の高い生活への復帰を目指すリハビリテーションの新しい手法です。日本でリハビリの専門職の手によって開発された、マシントレーニングを中心とした運動プログラムであり、各地で目覚ましい成果を上げています。まさに、「老化に対するリハビリテーション」といえます。
- 軽負荷でのマシントレーニングです
- パワーリハビリテーションは、筋力強化を目的としたプログラムではありません。
パワーリハビリテーションは、マシントレーニングを軽負荷で行い、全身各部の使っていない筋を動かします。それにより、「すたすたと歩けるようになった」というような動作性・体力の改善、「外出するようになった」といった心理的活動性の改善が得られます。
パワーリハビリテーションが心臓に与える影響は「入浴」より軽く、運動によるリスクはほとんどないといえます。 - 行動変容をもたらすリハビリテーションです
- 身体の動きが良くなった、疲れにくくなったという動作・体力の改善は、「自己認識・自己概念」に変化をもたらし、自信もついてきます。自信がつくことにより、行動の変化も生まれてきます。
また、パワーリハビリテーションのような軽い有酸素運動の時に、神経から放出される物質には、「うつの改善」など心理的効果も発揮します。
パワーリハビリテーション実施後に趣味であった社交ダンスや登山、絵画を再び行うようになったなど、数々の行動変容が報告されています。
要介護者の自立支援と介護負担の軽減
パワーリハビリテーションは、健康増進、介護予防の対象者から要介護度5の高齢者まで行うことができます。18 年度から始まる新予防給付の対象者や軽度介護者だけではありません。対象者の幅が、筋力強化を目的とした他の介護予防の手法との決定的な違いでもあります。 対象者幅が広いことから、マシンの有効的な活用も可能となります。
筋力強化とは違う軽負荷トレーニング
パワーリハビリテーションは、マシントレーニングを軽負荷で行い、全身各部の使っていない筋を動かすことにより効果が得られます。よって筋力強化を目的としたトレーニングではありません。「パワーリハビリテーション」の急速な普及により、「パワーリハビリテーション」を高齢者向けマシントレーニングの総称と思われているケースもありますが、高齢者向けのマシントレーニングには、筋力強化を目的とした手法もあり、パワーリハビリテーションとそれらは全く異なるものです。
バランスのとれた不活動筋の再活動化
指導する側の理学療法士、作業療法士が、筋力強化・筋力増強をやるというふうに誤解をしてしまいがちです。パワーリハビリテーションを始めて私たちが発見したことは、高齢者の体がだんだん動きが悪くなってくるのは、筋力の低下が問題ではないということです。
筋力低下が問題でなければいったい何であるのか。それは、普段使っていない、眠っている筋肉を動かすようにすることです。原理はごく簡単で、各部の使っていない筋肉を万遍なく動かす(再活動化)にあります。
要介護度の改善
神奈川県川崎市の「介護予防・パワーリハ事業」において、パワーリハビリテーション実施前後の要介護度比較を行ったところ、要介護度改善率が81%という驚くべき成果が得られました。(平成13年度~15年度実施 対象者79名)
また、16年度の市町村モデル事業では、参加者全員に改善が見られた市町村もあります。
介護保険財源の節減に大きな期待
このような介護度の改善は、莫大な財源節減につながります。川崎市を例にとると、給付限度額での算出において、一人当たり年間105万円の給付費節減になるといえます。
また、介護予防制度に成功報酬の仕組みが導入される見通しの中、確実に成果をあげる手法を実施することが介護事業者にも必要となっています。
病気に対する成果
パワーリハビリテーションは身体的な回復だけではなく、各種病気・障害に対する成果も報告されています。
認知症 | アセチルコリンという物質(この物質の減少が認知症の原因)の分泌、痴呆の類縁疾患といわれる「うつ」を改善する物質の分泌、さらにはパワーリハによる身体的活動性の向上が相乗的に作用しているためと考えられています。 |
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パーキンソン病・ 症候群等神経難病 |
パーキンソン病やパーキンソン症候群の例では2週間ほどの短期間のパワーリハで劇的に改善する例がみられます。他の人々もパワーリハを続けているうちにゆっくりとしかし確実に改善していくことが多くみられます。これは運動に伴って大量のドーパミンの分泌がおこるためと考えられています。また、脊髄小脳変性症で寝たきりとなった方がつかまり歩きが可能となる例も報告されるなど、従来は病気の進行にまかせる以外に有効な治療がなかった神経難病にも効果があることがわかってきました。 |
陳旧性脳卒中の麻痺 | 何年も前に脳卒中にかかって、かたく動かなくなった手足がパワーリハで実用的なレベルまで改善する例が少なくありません。これはパワーリハによる反復する運動によって緊張がやわらぎ、動きが誘発されるためと考えられます。ずっと昔の病気だからといってあきらめる必要はありません。 |
腰痛や膝の痛み | パワーリハを行うと姿勢が著しくよくなります。姿勢がよくなると脊椎や膝への体重のかかり方が均等になり、この結果腰痛も膝の痛みも自然にとれていきます。 |
パワーリハビリテーションによる行動変容
- *要介護1の74歳の女性がパワーリハビリテーションのあと社交ダンスを再開した。
- *要介護1の78歳の男性がパワーリハビリテーションのあと趣味の登山を再開し、富士山の八合目まで登り、再び絵も画きはじめた。
- *要介護5まで悪化した78歳の男女がパワーリハビリテーションで非該当に改善し、今ではゴルフや旅行を楽しんでいる。
これらはいずれもパワーリハビリテーションによる行動変容の成果といえます。
2.マシン選定と手法遵守
パワーリハビリテーション用マシンの選定について
当学会では、パワーリハビリテーション実施施設において使用されるトレーニングマシン(以下マシン)は、安全規格を満たしていることはもちろんのこと、 スポーツ向けではなくリハビリテーション用に開発された機器であることを選択の基準としました。
そのため当学会は、ドイツの外来リハビリテーション施設協会(ZAT)の定めるリハビリテーション用マシンに関する要求事項を踏襲し、パワーリハビリテーション用に定め直しました。
別紙、全ての要件を満たすマシンを当学会は推奨します。
自立支援介護・パワーリハビリテーション学会推奨マーク
※推奨マーク取得申請は、別途学会へお問い合わせください。
当学会推奨マシン
当学会で定めた要件を全て満たしているのは、現在下記のマシンになります。
- コンパス(ドイツプロクソメッド社製)
- コンパス Sシリーズ
- コンパス Zシリーズ
- コンパス コンパクト
- プレクサー
パワーリハビリテーションの条件
似たようなマシンであれば、どれも同じだと思われている方もいるようですが、パワーリハビリテーションを行うには、推奨マシンを使用することは必須条件です。
しかし、推奨マシンを採用しただけでは、パワーリハビリテーションとは言えません。手法を遵守してはじめてパワーリハビリテーションとなります。また、理論を学ぶことで、マシン選定の重要性をより深く理解できます。
当研究会では、基礎理論と指導技術を習得する研修会を、本部と支部のある地域を中心に開催しており、すでに5000人近くが受講されています。
詳しくは、研修会のお知らせをご覧下さい。
3.パワーリハビリテーション 成功の秘訣
パワーリハビリテーションを効果的にする「成功の秘訣」は、とてもシンプルな下記の3点です。
1.基礎理論を学習し理解する
平成18年度の介護保険改正により、新たな介護予防サービスについては、有効性が確立されているプログラムとして、「運動器の機能向上」が新予防給付に導入することが予定されています。今回の改正にいたる背景として、平成15年から厚生労働省にて施策化された「筋力向上トレーニング事業」があります。この事業で行われたトレーニングの状況は以下の通りに整理されます。
- ・ パワーリハビリテーション
- ・ マシンを用いる筋力強化
- ・ マシンを用いない筋力強化
筋力強化トレーニングは、原則として健康な人に対して行うトレーニングで、筋力を増強させることを目的に強い負荷(最大筋力の60%)で運動を行います。筋線維や筋細胞を破壊して再生するために高齢者にはリスクが高い上、頚椎圧迫骨折の危険性、バルサルバ反応による脳梗塞や心筋梗塞の危険性も伴います。強い負荷でのトレーニングでは、どうしても脱落者は増え、高齢者の不安も高まります。
一方、パワーリハビリテーションでは、虚弱、要介護者を対象として、軽い負荷をかけ、普段使われていない、眠っている筋群を呼び起こし、神経と筋肉が協調した行動をとれるようにするもので、結果的に筋力の向上につながることもあります。また、有酸素運動であるため、爽快感をはじめ、うつなどに有効な神経系物質分泌も得られます。さらに、軽負荷であるということが安全性を確保しています。
しかし、最近では、「パワーリハビリテーション」といいながら、理論からかけ離れ「筋力強化」を行っているところも出現しています。これでは、成果が大幅に減少してしまいます。基礎理論を理解して、実践することが重要なポイントです。
2.指導技術を習得する
大切なのは、フォームとタイミング
フォームとは、運動中の「姿勢」、「動作」です。フォームが適正でないと、不活動筋が活動しないまま終わることになります。
タイミングは、往復運動を一定のリズムで行うということです。例えば、「1,2,3,4 」と4 秒ぐらいのタイミングで引っ張る動作をし、折り返し「1,2,3,4 」と元に戻します。「往」は忠実にタイミングよくできても、「復」はリズムを乱しがちです。パワーリハビリテーションは「往復運動」です。
パワーリハビリテーション開始後3 ~4 週までは、「フォームとタイミング」に専念します。
「楽である」が上限の負荷と心得る
パワーリハビリテーションでは、Borg によって提唱されている主観的運動強度(RPE )、Borg 指数で10 ~12 、本人が「楽である」を目安に負荷量を決定します。「楽である」はあくまでも負荷の上限として考え、これを越える負荷は「パワーリハビリテーションの手法」ではなく、効果も期待できません。
丁寧な指導で-自主トレではない
マシントレーニングにおいて、どうしても「自主トレーニング」的な扱いにいなってしまうことが多々見られます。虚弱・要介護者にとっては、「フォーム」と「タイミング」を正確に保つことが非常に困難なことなのです。まさに指導者手腕が発揮されるところで、丁寧な指導が必要となります。とはいってもそれほど難しいことではなく、各マシンに介助者がついて、指導者がフォームとタイミングをチェックし、必要な指示を与えていけばよいのです。
こんな失敗例-繰り返さないために
軽い負荷の運動は、指導している側が物足りなくなるという欠点があります。それから実際にやっているお年寄りたちも「こんなものでいいのですか」という物足りなさや、一緒にトレーニングしている人同士で錘の重さをついつい競ってしまうなどして、利用者のニーズという名のもとに、負荷をあげてしまうことも見受けられます。「楽である」の負荷量を、いい加減に捕らえてはいけません。
その他何といっても、基礎理論を勉強しないまま、筋力強化と勘違いして、非常に大きな負荷をかけて失敗するケースもあります。
3.適切なマシンを選択する
当研究会推奨マシン「コンパス」シリーズのうち6機種当研究会が推奨しているマシンを使用してください。 推奨マシンは、ドイツ・プロクソメッド社製の「コンパス」というシリーズで、もともと医療用機器として開発されたものです。体の各部はそれぞれ関係しあっているので、全身の不活動筋を同時に再活動化していくことが重要な鍵です。パワーリハビリテーションでは、「高齢者は下半身が弱いから下半身から」というアプローチではなく、上肢、下肢、体幹とバランスよくトレーニングを行います。このような原理に対応できるマシンということで、コンパスシリーズの中で6機種をパワーリハビリテーション用として使用します。